体験価値を高めるカスタマージャーニー設計【PDFテンプレート付き】
1.【前提整理】カスタマージャーニーの本質
カスタマージャーニーは、顧客の日常生活から購入の検討、実際の購買(利用)に至るまで、顧客が接触しうるさまざまな「タッチポイント」を包括的に捉える概念です。これらを可視化し、構造的に図式化したものを「カスタマージャーニーマップ」と呼びます。
見込み顧客に自社の商品・サービスを選んでもらい、さらにファンになってもらうためには、認知から購入、消費、その後の情報共有に至るまでの「顧客体験全体のマネジメント」が不可欠です。
具体的には、適切なタッチポイントにおいて、複数の部門・チームが連携し、戦略的な施策を展開していく必要があります。そのため、カスタマージャーニーを整理しマップに落とし込む作業は、現場の担当者が集まり、「横断的なチーム」として取り組むことが極めて肝要といえるでしょう。

2.【課題】なぜ、多くのカスタマージャーニーマップは「形骸化」するのか?
『横断的な取り組み』が不十分であったり、描き方に偏りがあったりすると、せっかくのマップが実務で機能しなくなってしまいます。次に、設計時に陥りやすい代表的な課題を見ていきましょう。
1. 顧客視点を欠いた「企業の願望」
マーケティングの本質は、徹底した「ユーザー目線」にあります。しかし、実務では無意識のうちに企業側の「こう動いてほしい」という希望や憶測が混入しがちです。

2. 心理的障壁を見落とす「表面的な設計」
カスタマージャーニーマップが失敗する大きな要因のひとつに、顧客の「行動」だけを追いかけてしまい、その裏側にある「感情」や「迷い」を無視してしまうことが挙げられます。

3. 施策に繋がらない「壁紙化」したマップ
カスタマージャーニーマップの真の価値は、描くことではなく「活用すること」にあります。しかし、多大な労力をかけて完成させたことに満足してしまい、本来の目的である施策の実行や改善に活かされないまま「壁紙」と化してしまうケースは少なくありません。

4. なぜカスタマージャーニー設計は機能不全に陥るのか
これまで見てきた3つの課題は、単なる作成スキルの不足ではなく、設計に向き合う「スタンス」や「環境」に根源的な原因があります。せっかくの取り組みを無駄にせず、真に機能するカスタマージャーニーマップを作り上げるために、私たちが直視すべき「問題の本質」を整理しました。
❶「社内バイアス」による客観性の欠如
自社の中にいると、無意識に「製品中心の思考」に陥ってしまいます。自分たちの常識や成功体験がフィルターとなり、顧客が抱く純粋な迷いや「選ばない理由」を、客観的に捉えられなくなることが第一の原因です。
❷「事実(データ)」に基づかない推測
裏付けのない想像だけでマップを埋めてしまうと、それは単なる「理想の物語」で終わります。ユーザーインタビューや行動ログといった「事実」に基づかない設計は、施策のピントを狂わせる最大の要因となります。
❸組織の分断が生む「体験の断絶」
顧客の体験は一続きですが、企業側の組織は部門ごとに分断されがちです。各部門が「自領域の最適化」だけを追求し、部門間の「隙間」にある顧客心理を誰も責任を持って描けていないことが、カスタマージャーニーの断絶を招いています。
3.【事例】カスタマージャーニーが変えた顧客体験
優れたプロダクトが必ずしも選ばれるとは限りません。成功している企業に共通するのは、「こう使ってほしい」という自社の願望を捨て、顧客が抱える「負の感情」をカスタマージャーニーで見抜いている点にあります。機能の羅列ではなく、顧客の躓きを解消することに全力を注ぎ、組織一丸となって「一貫した体験」を届けた2つの成功事例を見ていきましょう。
1. Slack:「多機能なチャットツール」ではなく「情報の波に溺れるストレス」を解消した事例
Slackがカスタマージャーニーで捉えたのは、「情報の洪水に溺れ、本来の仕事に集中できないチームの疲弊」という負の感情です。
この「情報のノイズ」を解消し、仕事の心地よさを実現するため、提供価値は以下のように設計されています。

2. SmartHR:「便利なクラウド管理」ではなく「ハンコと書類への絶望」を解消した事例
SmartHRがカスタマージャーニーで特定したのは、「終わりのない書類作成や役所への往復に、誇りを削られる人事担当者の絶望」という負の感情です。 この「アナログ作業の苦痛」から解放し、戦略的な業務へシフトさせるため、提供価値は以下のように設計されています。

結論
・「便利さ」を並べる前に、顧客が何に絶望し、何に疲弊しているかという「負の感情」を徹底的に深掘りしている。
・機能(スペック)を売るのではなく、負を解消した先の「心地よさ」や「時間の創出」を提供価値として約束している。
・その約束を全社で一貫して守ることで、独自のブランドポジションと圧倒的な支持を獲得している。
4.【進め方】実務で使えるジャーニー設計の5ステップ
ステップ1:プロジェクトのゴールと「ペルソナ」設計
「離脱防止」や「単価向上」といった解決すべき課題を明確にし、ターゲットとなるペルソナを設計します。誰の旅を描くのかが曖昧では、施策の解像度は高まりません。
あわせて、「顧客がどんな状態になれば成功か」という具体的なゴールを設定しましょう。
この土台を固めることで、チームの方向性がひとつに定まります。

ステップ2:顧客行動と「負の感情」
顧客の動きを「認知」「検討」「決定」などのフェーズに区切ります。 その上で、各フェーズごとに顧客が何を行い、どんな「不安・迷い・不信」を抱いているかを書き出しましょう。企業の願望ではなく、事実に基づいた「負の感情」を特定することが、解像度を高める秘訣です。
ステップ3:タッチポイントと「提供価値」の特定
抽出した顧客行動に対し、企業がどこで接触し(広告、サイト、店舗等)、どのような情報や体験を提供すべきかを整理します。顧客の「負の感情」を解消し、次のステップへ背中を押すための「最適なメッセージ」を特定する作業です。

ステップ4:部門横断での「ボトルネック」検証
作成したマップを、営業・マーケ・CSなど、顧客接点を持つ複数の部門で検証します。「現場の実感とズレはないか」「部門間で体験が分断されていないか」を議論し、組織全体で共通認識を持つことが、形骸化を防ぐカギとなります。
ステップ5:具体的施策への落とし込みとKPI設定
マップを完成させて終わりにせず、特定した課題を「誰が・いつまでに・どの数値を動かすために行うか」という実行タスクに変換します。カスタマージャーニーマップを、現場が動き出すための「具体的な計画書」へと昇華させる最終ステップです。

5.【テンプレート配布】カスタマージャーニー設計用シート
EFが実際に実案件で使用している、BtoB/BtoC両対応の「カスタマージャーニー設計シート」を配布しています。
基本情報: 氏名(愛称)、年齢、居住地、職業、家族構成
心理・行動情報: 1日のスケジュール、よく使うSNS、仕事上の目標、現在直面している悩み
利用時コンテキスト: サービスを知ったきっかけ、導入の決め手、期待する変化

6.【まとめ】この記事の要点
カスタマージャーニーの本質は、美しいマップを作ることではなく、自社の願望を捨てて「顧客の不器用な真実」に向き合う勇気を持つことにあります。現場のリアルな実感とズレがないかを全部門で問い直し、特定した課題を「誰が・いつ・どの数値を動かすか」という実行タスクへ昇華させてこそ、マップは組織を動かす最強の武器へと変わります。絵に描いた餅で終わらせず、今日から一歩踏み出すための「具体的な計画書」として、カスタマージャーニーを使いこなしましょう。
7.【その他】Engineerforceの設計思想
EF(Engineerforce)は、単に「きれいなUI」を作る集団ではありません。 ユーザーの思考プロセスを徹底的に分析し、「なぜこのボタンはこの位置なのか」「なぜこの言葉が響くのか」をロジカルに説明できる設計を重視しています。
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